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help リーダーに追加 RSS 遠い風の記憶。

<<   作成日時 : 2008/09/08 15:57   >>

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 その姿は想像を絶するものだった。
 若草の上に少女の手足がパーツのように投げられていた。彼女のメイド服はボロボロで白いエプロンに飛び散った赤いシミが恐ろしさを増していた。

「一緒に行こうって約束したのに」
 ボロ服の少年が呆然と佇むなか、白衣を着た大人達が少女に群がり、そして何処へかと運んでいった。
 
 一瞬、強風が周囲を包み、すべてものが上空へと吸い寄せられる。

 ひとりの少年は天空を見あげた。過ぎ去る風は青い空の彼方へと消えた。

 風が奪っていった。

 それは少年の儚い夢。



 * * *



 そして10年。

「ご主人さま。ノワールのことをお許しください」

 タキシードをすんなり着こなした青年が年老いたドレス姿の婦人の手を引いている。

「たしかにノワールは私の友人だったが、今はただの使用人。以下でも以上でもない」

 会話は婦人を無視して続けられていた。メイドと主人の関係に特別のものがあってこその状況だった。許されぬ初恋は親の権力によって封じられたが、完全に引き裂くことはできなかった。

「ノワールがご主人さまを裏切るなど。ただ彼は……」

 メイドは言葉を失って腕をさすった。折りしもそこは古傷のある場所であり、主人ジャンヴェールの心の傷に触れるところとなった。

 人を立ち入れない山奥に広がる湖。それがジャンヴェールだ。
 その心がにわかに漣立ち、その美貌を崩すことになる。

「農奴が領地から出ることを許した覚えはない。ヤツは一生、藁小屋で暮らす。それがノワールの運命だ。あの日、ヤツがオマエにしたことを私は絶対に許さない! 覚悟しておくがいい。明日には見せしめに処刑する!」

「それだけは!」

 メイドは胸の痛みに耐えられず、その場に座りこんだ。
 ジャンヴェールは何事もなかったように婦人に微笑み、軽く会釈をすると再び歩き出した。

「友人に手をかけるなんて!」

 メイドの言葉に足が止まる。

「友人? ノワールが?」

 ジャンヴェールとノワールは共に科学者の家の生まれだった。
 あの日、ジャンヴェールは彼女に新たな手足を与えたことがきっかけで成功をおさめ、この領地を任されるほどになった。

 だがノワールときたらどうだ。
 領地から出ることは死を意味するのに、二度も逃亡を図ったのだ。しかも一度目は彼女を巻き添えにしてしまい、彼女は“世の果て”といわれる壁を越えてしまったために腕と足をもぎられたのだ。

「ノワールは迷惑で無能な男だ。ヤツに生きる価値はない」 

「そんなこと。ノワールはただ自由が欲しかっただけです。
 でもそれはご主人さまのためでもあるのです」

「私のためだと?」

 嘲りとも思える冷たい目でジャンヴェールはメイドを見据えた。

「――私、疑問に思っていました。
 領主さまの作った“世の果て”の壁で怪我をしてから、ずっとです」

「……その話はするな」

 ジャンヴェールの進んでいた足が止まり、メイドは低い声で呟いた。

 遠い記憶が風のように舞いこんできた。

「思い出したわ」

 あの日、あの場所にいたのは二人だけではなかった。

 怪我をした私と呆然とするノワール。そしてたくさんの白衣の大人。

 その白衣の大人を呼んでくれたのは、追ってきたジャンヴェールだ。



 メイドは指を婦人に向けて言い放った。

「私の腕と足をサイボーグにしてくれたのは、この人だわ。」  

 皺だらけの婦人は、大きな鍔の帽子で顔を隠したが、もはや遅かった。

 ため息をひとつもらす。

「だから言わんこっちゃない。いくら実験体を置くにはいい場所だからって、こっちの世界に置いとくからだよ――ジャン、あんたとは手を切ることにするよ。みんな死ぬまでここから出られないで終わるんだ」

 婦人は高らかに笑うと、宙に浮き、そして一瞬で消えた。

 がっくりと膝をつくジャンヴェールにメイドが肩をかした。

「これでお終いだ」

「申し訳ありません。ご主人さま、私とんだこと……」

 ジャンヴェールは頷きながらメイドの頭をなでた。

「大丈夫だ」

「ご主人さまは天才科学者なのに――私、なんてことを」

「いいんだ。プラスチックも半導体も人工皮膚も……全部ひとりで発明したなんて都合が良すぎた。
 ノワールは最初から疑っていた。そして君の手足をみるたび言い張ってた。領地の向こうには知らない世界があると。
 それで喧嘩になり、ヤツは再び領地を出ようとした。

 ノワールは根っからの革命家だ。ジャンヴェールとノワールが組めば、怖いものなんてない。この世界を壊し、新しい世界に旅立つならね」

「“世の果て”の壁はどうやって越えるのですか?」

「武器?――それならあるさ」

 ジャンヴェールはメイドの両手を取った。
 彼女に施したサイボーグの技術を研究し、密かに武装化させたことは間違いではなかったようだ。 




 あの日見あげた空をジャンヴェールはまだ憶えている。

 過ぎ去った風は空の彼方から戻ってきたようだ。

 風が奪っていった少年の儚い夢は今、現実のものとなろうとしていた。






***おわり***

久しぶりすぎてイマイチ調子がつかめんでしゅ。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
いつもと違った作風だ。
SF的な要素が無かったら、ハイファンタジーに近い感じ。雰囲気がとてもいい。
火群
2008/09/11 01:33
わーい火群さんに誉められたぞ!\(^O^)/。
ありがとございまーす。

無知ゆえにハイファンタジーがなんとなく分かんないけど、誉めてもらってることは確実に分かる!
(*^^*))イヤドウモ・・・・・
たまにゃいいこともあるもんです。
sora
2008/09/11 10:00

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