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俺は惚れた。エリはとても綺麗な女だ。 メタボ予防に始めたエアロビで彼女を知った。 けれどエリは高嶺の花。 歳は俺より十歳も若いのに落ちつきがあって、だけど運動神経もいい。じんわり汗ばんだ彼女は桃色に頬をそめて、髪をなびかせて踊っている。その姿に何度見惚れたことか。世間からオヤジ扱いされる俺にとって、彼女はガラスケースの人形みたいに見ることができても手の届かない存在だった。 だから彼女の方から告白された時、俺は奇跡だと思ったし、絶対に逃がしちゃならないと思った。 だから小指の先ほどの給料で爪の垢みたいな預金をくずしてエリにブランド物のバッグをポンポン買った。 「昌弘さんて、お金持ちで太っ腹ね。本当にいいの?」 エリの微笑みは天使のように無邪気で可愛い。 「いいんだ。これで俺もスマートになったよ」 中年の太鼓腹を叩きながら、自虐的ギャグでエリを笑わせる。 それが俺(昌弘)の精一杯の機転の利く台詞だった。 朝も昼も晩も電話とメール。彼女が今何をしているのか、気になって仕方がない。彼女は若いのだ。会社の同僚か、会社帰りの合コンか。色々な男がエリに食いつくことだろう。それを阻止するのは俺の丁寧な優しさと気の効いたラブコールしかない。 そして夜は夢の中で彼女との今後を想像した。いつしか24時間、仕事も手につかぬほどエリを愛してしまっていた。 だが熱くなる一方の昌弘に対しエリは次第に冷たい面も見せるようになった。やがて喧嘩が絶えなくなった。 昌弘は同じくエアロビ仲間の園子にエリの関心を惹くにはどうしたものかと相談するようになった。 「昌弘さんは純粋すぎるのよ」 園子はエリとも仲が良く、控えめで優しい心の持主だ。 エリとの事で愚痴をこぼす昌弘を園子は簡単に受け入れてくれる。それは愛に傷ついた昌弘の癒しになった。 「エリは俺と、俺の金のどっちが好きなのか……」 「エリはちょっとお洒落なだけよ。そのあたりあたしなんか見習った方が……」 「園子ちゃんは、そのままがいい!」 思いもよらず昌弘は断言した。そして息を呑んだ。 いけない感情に囚われていたことに気付いた瞬間だった。 「――今、分かった。」 エリに尽くそうと俺は自分を犠牲にしてきた。けれどお互いを大切にできる、すごい女がこんな近くにいたのだ。 「園子ちゃん」 その名を呼ぶと、愛しさが込み上げてきた。 そう。これが俺の本当の気持ちだ。 「――ん? どうしたの。そんな真剣な顔して、大丈夫?」 荒れ果てた心に届く園子の声は乾いた大地に水が染みこむようだった。 「園子さん。俺にとって大切なのは君だよ……」 中年男には夢のような状況だった。 二人の女性のうちどちらかを選ぶなど滅多にあることではない。一人は美女。そして一人は癒される女。なやんだ末、昌弘は園子を選んだ。 エリは我侭を言って悪かったと昌弘に謝ったが、昌弘の気持ちはすでに固まっていた。エリは友達と彼を同時に失ってショックを受けたようだが、園子が昌弘に騙されたと思ったようだ。 別れ際に昌弘に対して未練タラタラ恨み言を吐き、 「私はあなたの記憶のなかで、永遠に住みつづけることにするわ」と最期に笑った。 それがとても妙な微笑みで心に残ったが、これですっきりした。終わった恋より、園子とのことを考えるほうが先だったのだ。 だが本当の試練はこれからだった。 ***つづく*** 怖くなるよ〜〜! |
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